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2015.10.25(日)
大丈夫!全年齢だよ!腐ってるだけだよ!
ピアジャコ馴れ初めSS!第5回
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「――俺も、ここで、戦う。銃ぐらい使えるわ」
我ながら物凄い決心で言ったつもりなんだが、あっさり一蹴された。
「君ね…。ここで僕に味方したら、今度は敵方から、
こちらの組織の一員なんだと見られますよ?
こっち専属ワイバーン便なんだなってね。
裏社会の一員と認識されて、家族も巻き込んで襲われます。
君は絶対に、僕の味方をしちゃいけない。
……1週間後、定期便のフリするだけなら、辛うじて言い訳できるかな。
あと、強いて言うなら、ここでの騒動がどんな風に伝わったか、
近在で情報収集でもしといて下さい」
「…それだけかよ…」
俺は心底落胆したが、相手の言うことは尤もだった。
家族を巻き込まれるのだけは絶対に困る。
~続く~
1週間なんてとても待てなかった。
かと言って竜を飛ばす訳にも行かず…、
行商人の集まる宿や酒場でそわそわしながら、
それらしい話に耳を傾けていた。
そしてすぐに、「山間の村で看護婦が1人撃たれて死んだらしい」
という話を聞きつけた。
これ、多分、間違いねえよな…。だけどまだ安心できねえ…
アイツ女顔だし、変装してたかも知れねえし…
「俺、明日山の方に向かうつもりだったんだけど、
物騒な話だよな。何が有ったか、知ってること聞かせてくれよ」
トレードマークの青服も封印して、場末の酒場で話を聞いた。
銃を持った連中が大量に診療所を襲撃して去っていった、
って話だった。
敵が無事に去っていったのだったら、戦った相手は……。
1週間が待ち遠しかった。
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1週間経った。運ぶ荷は、大量の薬とリザードパウダー。
これでもう間違いない、ジャコーは生きてる!
ソルを急かして、山間へ飛んだ。
診療所に行ってみると……。
ひどい有様だった。
漆喰壁のど真ん中に撃ちこむような下手糞は居なかったようで、
つまり建物の縁や開口部の縁がボロボロに崩れている。
窓ガラスも殆ど無い。
触れば崩壊しそうだ。
木造の納屋は納屋で、板壁は簾みたいになっていた。
だが、随分風通しが良くなってしまったせいで、
中で人が立ち働いているのが見えた。
看護婦――以前にも顔は見ていたが、少し凛々しさを増した気がする。
俺は薬を持って診療所に入っていった。
元々はただ歩けないから寝ていただけのジャコーは、
今は全身に銃創を受けて完全に寝たきりになっていた。
「テメー……、生きてんじゃねぇか」
「はい、お陰さまで…」
流石に話すのも辛いかと思いきや、舌だけは元気だった。
神よ、あんたは少し物の配分が下手な気がするって言われねぇか?
看護婦が居なくなってから、噂の事を話した。
「銃を持った連中が大挙して来て、看護婦が1人亡くなった、って
下の街で聞いた」
ジャコーは何とも言えない微笑を浮かべ、
しばらく天井を見つめて黙っていた。
そしてゆるゆると、息を吐き出すように静かに、
「…『撃つか死ぬか選べ』と言った後、医師ともう1人の看護婦は
動きが変わりました。
亡くなった彼女は、違った。優しい人だったのでしょう」
確かに、誰にでもできることじゃない。
だが、できなきゃ生き残れないことがある。
それでも、生き残った2人にとっても、辛い選択だったろう。
「…っていうかそもそも、お前1人で戦うんじゃなかったのかよ?」
「…えー、そんなの無理ゲーじゃないですか。
というより、この村が仲間でない証明をするためには、
事前に襲撃の話なんかしちゃダメじゃないですかー」
「狸野郎。関係ないなら村から逃げるように
言うべきじゃなかったかよ」
「ところがどっこい…、逃げた人の中に幹部格が居るかもしれませんね?
どっちにしろ、何も知らない状態で、襲撃に驚き怯えた顔をして
持ち堪えるしかなかったんです」
「…確かに、そうかも知れねぇ。で? 敵は?
納得して帰っていったのかよ?」
そう聞くとジャコーはフッ…と満足そうな笑みを浮かべ、
ちょっと間を置いた。多分、敵とのやりとりを思い出している。
「ええ。最後の1人に伝言を…。
僕自身もまた療養場所を変えるから、この村の事は忘れろと。
無意味だとね。優しく教えてあげましたよ」
「優しくって…」
ぞくっとした。
「ぜってー優しくなかっただろ、お前」
「そりゃあまあ、こっちだってズタボロの状態ですからね。
一線超えてハイになっちゃって、凄い笑ってましたけど」
うおお…またぞくっとした。
本来、友人が生きていて喜ぶべきところが、素直に喜べねえ。
「……なあ。」
俺は自分の心労も込めて話しかけた。
「はい?」
「……もう、危ない仕事、しなくて済めばいいのにな」
「…、今回は僕のミス……というか詰めが甘かったのが発端なので。
これからは、ここまでひどいことには……多分」
ああ最低だこいつ……。
ヘラヘラ笑ってやがる……。
次からはずっと上手くやれると思ってる。
俺は頭を抱える。
「もう嫌だって……友達が、死ぬなんて、嫌だぜ……」
ジャコーは、慈悲深いとさえ言える表情で俺を見て、
「君も優しい。でも、ね。人はいつか死ぬんです。
実際、その覚悟をして毎日生きている人もいる。
僕なんかもそうですが……。
そう、君の友人のジャコーはそういう人間なんです。
僕を惜しんでくれるのは本当に嬉しい。
ですが、割り切るしか、ないんです。レン」
……何となく分かる。
っていうか、どんな仕事してても、事故で命を落とす可能性はあるし、
そういう意味ではどんな人間でも、
もしもの時の覚悟はしておくべきなのかもしれねえ。
俺は暫く頭を抱えたままじっとしていたが、
何か、納得してしまった。
ジャコーっていう生き方に。
もう、ジャコーの髪がどんなにサラツヤでも、
心が跳ねたりしないんだろうな。
こいつは裏社会で何かの役割を背負ってて、
比較的自由に動けるけれども、いざとなれば人も殺せる、
表通りを歩けば自警団や憲兵団とは犬猿の仲で、
賄賂を贈ったり、もしかしたら贈られたり、
そんな関係なのかもな。
納得した。
ジャコーは悪だ。
しかも覚悟が出来てる。
仕事上、乗せることもあるし、飯も一緒に食うけど…、
友達では…。
友達にしておくのは…。
「レン? どうしたんですか? 黙っちゃって」
「んぁ? いやだから…」
俺は思ってたのと違うことを言った。
でも、考えてみればこっちが本心だ。
「…もう、危ないことしないで欲しいなと」
「無理だって言ってるじゃないですかー」
「…だなー…」
割りと本気で納得した。
納得した辺りで、看護婦が見に来て、ジャコーも疲れたみてぇなんで
俺は帰ることにした。
来週も、定期便、それとも転院の依頼が来るだろう。
結局3ヶ月かかって、コイツの足は元通りになった。
それまでにかかった借金は100万G以上だと。
どえれぇ事で。
で、その借金返すために、冒険者の仕事もするんだとさ。
当然馴染みの俺も呼ばれる。
でもこっちの仕事なら、俺も手伝っていいんだな、
そう思うと結構、気分が軽くなる。
冒険者の時のジャコーは悪じゃねぇ、っていうか…。
そんな感じで、また、気づいたら仲良さそうになってて。
俺の警戒心も緩んでて。
ついでにジャコーの、決戦前の告白、忘れてたんだよなあ……
ある冒険依頼にニケツで帰る時に、
後ろでジャコーが、やたら切羽詰まった声で言った。
「……あーっ、もう我慢出来ない!!」
「な、何だよ……びっくりすんだろ。
トイレか? 降ろしてやろうか?」
「違いますよ鈍感」
「……?」
ジャコーが1人呟いているのが聞こえた。
「……今日こそ食べちゃおうかなあ……」
~Fin.~
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2015.10.23(金)
大丈夫!全年齢だよ!腐ってるだけだよ!
ピアジャコ馴れ初めSS!第5回
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
花街を出て、いつもの安宿に戻りながら、
ジャコーへの好意を胸にしっかりと刻み込まれた夜だったんだ。
~続く~
次に呼びだされたのはいつもと同じ1週間後。
定期便、と思ったら、どうもおかしい。
運びの荷物がまずおかしかった。
リザードパウダーは持たされなかった。
ライフルを10挺。拳銃がゴロゴロ入ってるトランク。
荷渡し人はわざわざトランクを開けて中を見せた。
意味は分からなかった。
∥...Open more∥
天気の良い日で、車椅子で散歩でもしたらいいんじゃないかって日に、
ジャコーは受け取った大量の銃を病院のあちこちに設置して回っていた。
ちなみに俺が車椅子を押している。
流石のジャコーも緊張した表情で、俺も話を聴きづらかったが、
それでも何も聞かないでいることは出来ない。
「……おい……、何があったよ……」
俺が恐る恐る聞くと、
「……まあ、簡単に言うと、居場所がバレた上に、
どうもこの村が僕らの組織の拠点だと勘違いされているようで、
大規模な襲撃がありそうなんです」
「……逃げねぇのか」
「逃げるとすると君のワイバーンを使うしかありませんが、
今回、僕の組織の上から君が疑われています。
君がこの場所を対抗組織に漏らしたと。
まあ、そうでなくても竜は目立ちますしね」
「なっ……!」
「僕も流石にフォローしておきました。君に限ってある訳がない。
あるとしたら精々歓楽街で、『足を怪我して歩けない友人の、
毒舌がうざくて死にそうだ』と愚痴を漏らしたくらいでしょう」
「……え……」
「別に悪いことじゃない。たまたま、店か、店員が悪かったんです。
君のせいじゃありません」
緊張していたジャコーの表情が徐々に落ち着いて来ていた。
深い紫水晶の瞳で、俺をじっと見上げる。
「まあ、そんな訳で……、襲撃があったら、僕はここで孤軍奮闘。
この村は僕の組織と関係ない、と相手に納得してもらった上で、
全員あの世に行って頂きます」
顔色がいつにも増して白い。幽霊のように白い。
「1人で……? 何で…。組織の援軍はねぇのかよ」
「ありませんよ。僕は一番の下っ端なんです。
僕を助ける為に上官が斃れでもしたら本末転倒の大損害です」
「そんな…、1人じゃ、勝てるものも勝てねぇじゃねぇか…」
言葉を失う俺に、ジャコーは何やら優しげな微笑みを向けてきた。
「……いいんですよ。君には言っていなかったけれど、
僕は奴隷の身分です。ただまあほんのちょっと銃の腕がいい、
というだけで、色々仕事を任せてもらえたりしましたけれど。
奴隷に、最後の大舞台を演出させてくれるなんて、
優しいじゃありませんか。
今までのリザードパウダーだってそうです。
あれ、僕の借金になっては居ますけど……、
『生きたい』と言ったら生かしてもらえた。
『傷を治したい』と言ったら、よく効く薬を手配してもらえた。
僕の組織は優しいです。
……死ぬべき状況が訪れたからといって、
『死にたくない』なんて言えません。
恩を返すために全力で、僕の腕を発揮してやりますよ。
……それに、ほら」
ジャコーは、少しだけ邪悪に笑った。
「僕の得物。こんなに沢山用意してもらえた。僕の銃。僕の……」
人間が「物」に向けていい笑顔じゃなかった。
重度の銃フェチ、なんてもんじゃねぇ。
こいつは銃を舐めるだろうな。愛してるからな。
それ以上のこともするだろうな。何せ愛してるからな。
実際、目の前で、膝に抱えていたトランクを開けて、
一挺取り出しては舌を絡めるようなキスをしていた。
……はあ、やっぱりこいつはおかしい……。
少し疲労を感じたが、その最後のトランクを、
自分の普段の病室に運びこんで、設置作業は終わりのようだった。
「お疲れ様です」
車椅子を押して歩いていた俺に、ジャコーが礼を言う。
「……礼とか……」
俺の気持ちはそれどころじゃねぇ。
友達――と思っている人間が死ぬかどうかの瀬戸際で。
「――俺も、ここで、戦う。銃ぐらい使えるわ」
我ながら物凄い決心で言ったつもりなんだが、あっさり一蹴された。
「君ね…。ここで僕に味方したら、今度は敵方から、
こちらの組織の一員なんだと見られますよ?
こっち専属ワイバーン便なんだなってね。
裏社会の一員と認識されて、家族も巻き込んで襲われます。
君は絶対に、僕の味方をしちゃいけない。
……1週間後、定期便のフリするだけなら、辛うじて言い訳できるかな。
あと、強いて言うなら、ここでの騒動がどんな風に伝わったか、
近在で情報収集でもしといて下さい」
「…それだけかよ…」
俺は心底落胆したが、相手の言うことは尤もだった。
家族を巻き込まれるのだけは絶対に困る。
そうか、俺も冒険者の手伝いはしたこともあるが、
コイツの手伝いは一度もしたことがなかった。
しないように、手伝わないように、関わらないように、
コイツが気を使ってたんだ。
…ああ、いや、最初は……、
俺が距離を置いてたんじゃねぇかよ……
それがいつからこうなった。
俺はホントもう泣きそうで、ジャコーの顔も見れなかった。
俺が押し黙ってしまったのでジャコーも困ったのか首を傾げ、
何か言い出した。
「ねぇ、レン。僕、もう死ぬかもしれないんですよ。
キスしていいですかキス」
「え?」
こいつが男も行けるとは聞いたことが無かった。
あったらもうちょい警戒してる。
「何で?」
多分俺の聞き返し方もおかしい。
それに真面目に答えるジャコー。
「だって!! もう死ぬんですよ!! 寂しいです!!
レンは僕の友達じゃないんですか!!!!!」
「……!!」
友達だって。
俺、ジャコーと友達になりたかったんだ。
騙されてるのかって思ってたけど、騙されてなかったのかな。
「むしろ俺が聞きてえわ。お前、俺の友達なの?
友達のフリして笑ってたんじゃねぇの?」
この期に及んで、ずっと気にかかっていたことを尋ねる。
「違いますよ! めちゃくちゃ面白いオモチャとして
ちょっとからかいすぎた時もありましたけど、
僕、レンのこと凄く好きですから!!!
死ぬ前に、……キスくらい……、したいんです……」
金色の眉根を寄せて、ジャコーもちょっとだけ泣きそうな顔になってた。
からかってるとか、騙してる余裕なんてなさそうだ。
つまり、本心だ。
キスは正直どうだろう……、って感じだけど……、
でも、明日にもこいつは死んでしまうって言うなら、
答えは決まってる…としか言いようがない。
「……俺もお前のこと結構好き。キスするかね」
何かあんまり男らしくない感じで言ったけど、
「はい!!」
相手が凄い食いついてきた。
あー、そうなんだー、こいつはキスがしたかったのかなー、
などとぼんやりしてる間に、
こいつの性格にしては控えめなキスは終わってた。
「え? あ、もう終わったのか」
「レ、レンが嫌かなと思って……。じゃあもう少しだけいいですか」
「え…、あ…、まあ…」
ぼんやりしていたさっきと違って、まじまじと、相手の顔を見てしまう。
金糸に縁取られた紫水晶はひたむきに俺の口元を見て顔を寄せてきて、
ぱさ、と音を立てたまつ毛が紫水晶を隠す。
最初そうっと触れた唇が、次第に音を立てて相手を啄もうとする。
そんなバーズキスをしてる間に、ジャコーはいつしか涙を流して、
「……、レン……好きなんです……ごめんなさい……好きです……
うううう~」
大号泣始めた。困った。
この場合泣くべきは俺を好きとかじゃなくて、
1人で敵の襲撃を凌げるか分からないところだろう…。
死にたくないって泣くべきじゃないのか。
だけどまあ、こいつを待ってる運命が過酷で、
俺も手伝ってやることが出来ない以上、
俺にしてやれるのは泣いてるコイツを抱きしめてやることくらい、
なのかな~、ってんで、友達だし、ハグってやった。
泣いてる顔は、胸につけて涙を吸い取るようにして。
あ、意味分からん伊達眼鏡は外した。
泣いてるジャコーを抱きしめて、あやすように揺らして、
おでことか頬とかキスしたり触れたりして、
何か子供あやすみたいにして何とか落ち着いてもらった。
保父に向いてるかもしれん。
そして、ようやく気を静めたジャコーは、
これで笑ってお別れかと思いきや、最後の爆弾を用意していた。
「…………最後だと思って言いますけども」
妙に仰々しく切り出す。
「僕は両刀です。で、そーいう意味でレンの事が好きです!」
そんな予感はしていた!!
「結婚しろとは言いません!
恋人になるのもリスクあります!
だから、ただの友達でいいんです……
ただ、好きだってだけで……」
横を向いて、口を尖らせて、スネたみたいに斜に構えて、
そしたら俺の麗しの金糸の髪が。
凄くいい角度で肩から胸に落ちて。
とても美しい絵になっていた。
俺もこの男なら好きになっても良いかな、とちょっと思えた。
ちょっとだ。
あくまでも、ちょっとだけだけど。
~続く~
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2015.10.22(木)
大丈夫!全年齢だよ!腐ってるだけだよ!
ピアジャコ馴れ初めSS!第4回
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
その日は、ワイバーンライダー用の安宿に泊まって、
壊れた青いガラスみたいな気分で過ごして、
次の日からは別の町へ移って仕事した。
~続く~
あの傷だと、どんだけリザードパウダー使っても
1ヶ月以上かかるだろうって読んでたんだが、
あの後たった2週間でお呼びがかかって驚いた。
むしろついにおっ死んだかと思ったぜ。
喪服持ってないからどうしようかと思った。
∥...Open more∥
とりあえず生きてはいたわ。
だが、退院でもなかった。
削げた肉は半分も戻ってなかった。
当然歩けない。
何かというと、転院だ。
抗争相手に居場所がバレたようだから、また別の町で療養すると。
ちょっと痩せたかな。
俺は相変わらず、手入れが行き届いていないはずなのにサラツヤな
絹の金糸を眺めながら、今度はきちんと
クッションを敷いたゴンドラを使ってジャコーを、
少し離れた、山間の街へと移動させた。
治療はリザードパウダーに頼る、と決めたら、医者の腕はどうでもいい。
俺がリザードパウダーを定期的に運ぶことになった。
流石裏の組織、用意されたパウダーの純度は並じゃなかった。
値段は相当張るだろう。
そして、使用の際の激痛も、相応なものだろう。
俺が、運びを頼まれても居ないのにジャコーに届けたのは、
山のような鎮痛剤だった。
ジャコーはそれを見て、何だか呆れたような笑顔で、
「君は人が良すぎます。人生でもう何度も騙されてるでしょう」
なんて言うから、
「全ッ然そんなことねえし。騙されてなんか。
代金取りっぱぐれもねぇよ!」
と返した。アイツは最早憐れむような笑顔でしみじみ俺を見てやがる。
で、気がついた。
……そっか。俺、ジャコーに騙されてたんだ。
友達になったフリされて、実は全然そんなことなかったんだって。
流石に、バカみたいだ、と思った。
胸の中でガラスは割れなかったが、
白いハンカチが泥水に落ちるイメージが強く脳裏に焼き付いた。
女の子が使う、縁が貝殻みたいな波になった奴。
ジャコーはそんな俺を見ても何も言わなかった。
しょんぼりして、その日は帰った。
1週間に1回、純正品のリザードパウダーと鎮痛剤を運んだ。
病室に入ると、アイツはベッドに寝ていたり、
椅子に腰掛けていたりしたが、いつも1人で、表情のない硬い顔を
していた。だが、俺が病室に入る瞬間、作り笑顔を貼り付ける。
その作り笑顔も、以前と比べると随分力ないものになっていたが、
それも、結局、演技なんだろうか。
体力が落ちてるのも間違いねぇだろうし、半分演技、半分真実って
とこが正しいだろうか。
「……無理して笑わなくていいよ。
痛えだろうし。別に楽しくもないだろうし」
俺がそう言うと、意外にも奴は片眉を上げてニヤリ、と、
多分本心の笑みを見せた。
「何言ってるんですか。
社交辞令で笑ってみせるのは当たり前です」
……この野郎。
「……社交辞令かよ!!
つかはっきり言うなー……」
呆れて物が言えなくなりそうだ。
一方ジャコーは、
「いやあ、君になら何言ってもいいかなって……。
髪の毛触らせてあげた仲じゃないですか」
やばいこいつの笑い上戸に火が付きそうになっている。
ヘラヘラ、が、すぐにもゲラゲラ、の下品な笑いになりそうで、
俺は閉口した顔をした。
奴はそれを見て、半笑いのままで笑いを収めて、
「……何でそんなしょんぼりしてるんです?」
「お前が俺をおちょくってばっかりだからだよ!!」
至極不思議そうになされた問いに、とても自然に答えてやった。
ああ、腹は立つし……、
怪我は気になるし……、
こんな時でも髪はサラツヤだし……、
俺の雑念がぐちゃぐちゃしすぎて、何かもう泣きそうになってきた。
「も、今日は俺は帰るわ。早く治せよ」
「え? まだいいじゃないですか……」
ベッド脇の椅子に座る間もなく、持ってきた荷物を近くの荷台に積んで、
笑みを含んだ声を背に、入る為に開けて閉めても居なかったドアを、
出る為に閉めた。ジャコーはなんも言わなかった。
その日は近くの歓楽街に飛んだ。
話し上手で聞き上手のオネエチャン達が居るお店で、
俺はカシスオレンジなんつー甘ったるいもんを飲んでいた。
俺の憂鬱そうな表情に、多分一番年かさの女が話しかけてくる。
俺より年上だと思うけど、中々いい体型だ。悪くねえ。
「兄さんアンニュイな顔しちゃってどしたのよ」
「べっつに普通だよ。仕事が上手く行かなかっただけ。
それより姐さん色っぺえな! モテんだろ」
こんな感じでアホな話して気分持ち上げて。
酒飲んで女抱いて気持よくしてもらって。
少し落ち着いた。
年かさの女の言うことにはな、俺の話だと、
ジャコーが俺を友達として認めてないから憂鬱なんだろうって。
……つまり、俺はジャコーと友達でいてえってことらしく、
非常に認めがたい事実ながら――
でもそうだわ。
ジャコーが裏社会の人間じゃなきゃ良かったのに。
唯の冒険者で、俺はワイバーンで運ぶだけで、
あいつもヤバめの依頼なんかは選んで避けて、
単に顔が綺麗だからなんだろうか、
金髪が綺麗だからなんだろうか、
笑顔が、綺麗だからなんだろうか、
花街を出て、いつもの安宿に戻りながら、
ジャコーへの好意を胸にしっかりと刻み込まれた夜だったんだ。
~続く~
∥...Hide more∥
2015.10.20(火)
大丈夫!全年齢だよ!腐ってるだけだよ!
ピアジャコ馴れ初めSS!第3回
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
だけど、その日のフライトはもうそれ以上のことはなく
無事に済んで、で、暫くは会うこともなくて、
その日感じた妙な感覚忘れてた。
~続く~
次の仕事以降ずっと、おんなじ宿に泊まる習慣になって、
まあ男同士だし下品な話は一杯有ったけど、
特別なことは何もなかった。
この時期、結構仲良くなったんじゃねぇかな、多分。
だけど、強いて言うなら、
あいつの笑顔がどんどん眩しくなってきたってことと、
あいつの金髪の手入れ方法を俺が会得しちまったのは、
変なこと、だろうか……
∥...Open more∥
笑顔が眩しいってのは、俺の目の錯覚じゃなくて、
何かあいつ、いつも妙に嬉しそうなんだよ!
理由は聞いても答えてくれなかった。
俺はただひたすらアイツのいい笑顔ばっか見せられて、
理由も分かんないままご機嫌のアイツと飯食って、
部屋が2つ取れた時は別の部屋、
初回みたいに取れなかったら同じ部屋で寝た。
そーゆう仕事が2、3回ぐらいあったかな。
んで大体宿で寛いでる時に、
あいつの髪があまりにさらさらなんで、
「何か秘訣でもあんのー?」
って聞いてみたら、
な か っ た …
「嘘だろ…」
って言ったけど
「すみません…、本当です…。櫛で梳かしてるだけで…」
と申し訳無さそうに言われて信じた。
でも、実はあったんだなこれがー。
風呂が被った時に発見したぜ。
怪しい動きをしたから、手首掴んで、
「それ何だよ! 逮捕!」
秘密は暴かれた。
凄く軽いタッチのオイルを濡れ髪に少しだけつけるんだとさ!
…って何やってんだろうな俺は本当に。
一度お願いして、オイル使わない場合の髪を見せてもらったけど、
やっぱりいつもよりかはツヤ度が下がってた。
当たり前だけどな。
でも本当にすげぇなと思ったのは、
…その、何にもしない時の方が、サラ度は上がるんだぜ…
俺があんまりにも金髪のサラツヤ具合にこだわるんで、
あいつも困った挙句、
「ゆっくり触ってみます?」
「!?」
何故か心臓がバクバクした。
「いえ、何か金髪ストレートヘアが珍しいようですし」
いえ、珍しいんじゃなくて、好きなんです。
「ちょっと拘り方が尋常じゃないようなんで、
僕も落ち着かないんで、ここらで思う存分触っときません?」
……ちなみに風呂あがり、髪を乾かした後の、
ベストコンディションのサラツヤだった。
俺は軽口もろくに叩けず、
「じゃ、じゃあ折角だし……」
何が折角何だか全く分からねぇけど、
テープを繰り出すみたいな手つきで髪を暫く触ってた。
凄い神妙な顔してたと思う。
つるつるだった。
そのうちジャコーも暇になったのか、
櫛を渡してきて、梳かせと言う。
俺はまた、軽口も文句も何も言えず、
ただ黙って、アイツの髪を梳かしてた。神妙なツラで。
俺は覚えてねぇけど、
後でジャコーがゲラゲラ笑いながら言うには、
すっごく丁寧だったってさ。
だよな。天使みたいに崇拝してる金髪に触れたんだもんな。
まあ、こんな感じで、俺はジャコーを凄く綺麗な男だと思ってて、
多分、女の次に守ってやらなきゃならない存在みたいに
思ってたんだと思うんだわ。
次の依頼の時、それで凄く納得がいく。
次のジャコーの依頼の日は曇りだった、
んで、指定の街に行くと硝煙臭え。
あ、これは……と思いながら、高度低くして目立たないように
待ち合わせ場所行くと、
クリーム色のロングコート野郎がうつ伏せに、
街の方から這いずって来てたわ……
血の跡が累々と街から伸びてんの…ぞっとしねぇ光景だった。
一応、周囲に敵は居ないみたいだったんで、俺は焦って近づいた。
ジャコーは手持ちの属性球なんかで多少手当したみたいで、
意識はあって、
「…仕事は完遂しましたが綺麗に決まりませんでした。
とにかく予定の街へ飛んで下さい…」
普通に、ワイバーンタクシーライダーへの依頼をした。
傷は太腿で、結構でかい血管やられたっぽくて血がだくだく…。
ジャコーを表返すと、上向いた口から
「ふしゅう…」なんてふざけた息の根が聞こえてきたが、
太腿の前が削げてなくなってるっぽい。俺は思わず呆然となった。
俺は運送屋であって、ヒーラーじゃねぇ…
何か大事なものが壊れた時みたいに、胸が痛くなった。
むしろ胸が壊れた。
「ジャ、ジャコー…」
「何ぼんやりしてるんですか。さっさといつものように飛んで下さい。
貴方は運送屋であって癒し手じゃないんですから。
早く早く。死にますよ僕が」
俺が凄いショック受けてるのに、
俺が思ってること全部言われた挙句脅されて発破かけられた。
ぶっちゃけビビった。
空間拡張バッグからゴンドラ出そうとしたら、「えー」って言われた。
「僕もう死ぬかもしれないんですよ? 抱いて飛んで下さいよ」
これが本性なのか、本人も浮沈の瀬戸際ってやつで
大胆になってんのか分かんねぇけど、兎に角、抱き抱えて飛ばされた。
当然俺も血塗れになった。
横抱きで、足の方を高く上げて、頭の方を下げて。
「…追手はねぇのかよ」
「全部死んでます」
なるほど。腕がいいな。
「この傷。何でやられた」
「僕の装備のミニマスケット6丁が全部暴発させられまして。」
「太腿に装備してた奴か!! 自損!?」
「いやいや、相手の攻撃ですってヴぁ…」
こんなアホな会話してたお陰でジャコーは意識を失うこともなく
目的の街に着いた。医者に駆け込む。結論から言うと、
こいつ、小さな回復アイテムを腹に仕込んであったようで、
命は取り留めるそうだ。
削げた肉は、リザードパウダーで地道に治していくしか無いらしい。
とは言え重傷、当分歩けもしない。
入院決定、今日1日は絶対安静で清潔なベッドに寝かされた。
俺は何て言っていいか分からなくて、ひたすらジャコーの顔を見てた。
……凄いムカつくんだが、全然痛そうでも苦しそうでもねえの。
実際には痩せ我慢らしいんだが、兎に角俺をおちょくってくる。
もしくは初動の遅さをネチネチ文句言ってくる。
こいつ、今まで、完全に猫被ってやがった…。
天使とまで思ってた俺は一体…
「騙されたわ…」
一言文句を言う声に、
「あまりにもモテなそうなレナード君に、可愛い僕との
楽しい時間を過ごさせてあげたんですよ! イタタタ」
一応文句は言ったけど、腹は立たなかった。
相手がそんな状態ってのもあるし、
そんな相手が何でか…、俺を頼りにしてるって感じたからかね。
舐められてるだけかもしれねぇけど…。
何かこう、俺の方が元気を無くしてるところもあった。
何でって…、壊れたんだよ、何かが…。
俺もよく分からねぇよ。
……俺の仕事は、ジャコーを病院へ担ぎ込む所まで。
次の仕事で呼ばれるまでは、会うこともねぇ。
その日は、ワイバーンライダー用の安宿に泊まって、
壊れた青いガラスみたいな気分で過ごして、
次の日からは別の町へ移って仕事した。
~続く~
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2015.10.17(土)
大丈夫!全年齢だよ!腐ってるだけだよ!
ピアジャコ馴れ初めSS!第2回
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
宿の人間に確認して、結局1つの部屋で2人寝ることになった。
~続く~
飯は美味かったし、初めて面と向かって、腹割って話してみたら、
ジャコーは凄く楽しくていい奴だった。
「……わかります、
できれば裏社会とは関わり合いになるべきじゃないですから……。
僕も、個人的に君を良い奴だと気に入ってますけど、
だからこそ、君だけは絶対に、僕らの世界に巻き込まないと誓います。
……安心して、僕を乗せて飛んで下さい」
にっこり。エルフの整った顔が、楽しそうに俺の向かいで笑った。
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エールを酌み交わしながら、ちょっとだけワインにも手を出して、
ほろ酔いのまま後は2階の部屋へGO、だ。
同年代の新しい友人ができて、こんなに楽しい気持ちになるなら、
避けるんじゃなかったな、とちょっと後悔した。
で、まあ、宣言通りあいつはソファで寝て、
俺にベッドを使わせてくれたんだけど、
まあ仕方ないんだが、落ちそうなんだよな、ソファから。
熟睡するつもりもないらしく、腕組みして、
ほぼ座った姿勢で船漕いでる。
ソファの、座る部分が奥行き狭いんだな、
横になっても大人の体格じゃ幅がはみ出るわ。
まあ俺も人の良いこって……、
あいつが船漕ぐたびに、金髪がゆらっゆら揺れるの見てたらな。
何か……、妙な拘りが消えちまった。
あいつを起こして、ベッドと交代した。
ぶっちゃけ、ワイバーンライダー用の安宿のベッドの硬さは、
ここのソファの比じゃねぇから慣れてる、つったら、
其の妙な大小関係
(ここのソファの寝づらさ < 安宿のベッドの硬さ)
を理解するのに時間かかってやがった。
首かしげてた。、
「それ、ベッドとしてどうなんですかね……?」
で、とりあえず正しい答えに辿り着きはした。
だがまあそんな風にあいつが考えこんでる間に、
俺はソファにゴロンと横になって腕を枕にして顔に新聞乗っけて、
はみ出た長い足はサイドテーブルで組んで、
実に堂に入った睡眠姿勢を披露してやったぜ。
新聞乗っけてるから見えねえけど、あいつもそれ見て、
何か納得したか諦めたかで、ベッドで寝たと思う。静かになった。
次の朝、あいつの様子が変だった。
何か一生懸命俺の世話を焼こうとしているみたいなんだが、
生活スタイルの違う人間にタイムリーに世話を焼くのは難しい。
ああ、難しい。
つまり例えば俺がまずは顔洗おうと思ってタオルを出すと、
自分が出したかったらしく、
「ああっ!(ショック)」
みてえな声出すの。やりづれえ…。
「何なの? 何しようとしてんの?
そこまであんたの友達ごっこに入ってんの?」
…と、寝起きで些か機嫌の悪い俺は言ってしまった。
「え…と、友達ごっこ…」
相手が復唱して初めて、酷いこと言っちまった、と反省したんだが、
冷静に思い出してみると、
相手はそこは全然ショック受けてなかったわ。
俺は一応罪悪感を感じてもう少し優しく、
「…いや、 何か…俺の面倒見ようとしてねぇ?
何で? 普通しねぇよな…?」
って言ってみた。したら、俺的に予想外な、
「昨日ベッド譲ってくれたお礼」
だって。
しかもコイツに言わせれば、
俺は今日も客のコイツを乗せて安全運転しなきゃならない訳で
こいつ的には申し訳無さもあるし、安全性に心配もあるしで
何かお礼したかったらしい。
俺は、ほんとにコイツ裏の人間!?って新鮮な気持ちで一杯で
つい、床に膝ついてトランクの傍座ってるこいつの頭撫でて
「いーんだよ。俺がやるっていったんだから言うこと聞けっての」
…かっこつけちまった(汗)
だってこいつ、まだ、
出しかけのタオル手にしてぼーっと座ってるんだぜ?
…んで、まだ自分の髪の手入れ済んでなくて、
それでもサラツヤヘアーはほとんど乱れることもないんだけど
昨日よりかちょっとだけ、癖がついて、乱れてて…
ああ、何か俺、こいつの髪の話ばっかりしてねぇか?
…………何を隠そう、俺は金髪フェチだ。
赤毛っぽいのは気が強そうでいい。
プラチナっぽいのは神秘的でいい。
んで、こいつみたいな、キンポウゲみてぇな真っ黄色、
……天使かなって思うんだよな……
笑うなとは言わねぇ。むしろ笑え。
天使の髪は、こんな黄金だと思う。
ミカエルとか。ラファエルとか。ガブリエルとか。
ジャコーは、だからまあ、俺から見たら、
すげー綺麗な別世界の人間、ってとこだ。
軽く天使的だ。
それが友達になって…
俺の世話焼こうとして失敗して…
俺に感謝してて申し訳なく思ってて、
俺的には、別世界の人間が降りてきちまった感じな。
だけど、その日のフライトはもうそれ以上のことはなく
無事に済んで、で、暫くは会うこともなくて、
その日感じた妙な感覚忘れてた。
~続く~
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